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テック大手の発表相次ぐ医療分野向LLMの進化 -ChatGPT Health, MedGemma 1.5/AMIE、Hippocratic AI - 

2026.01.31 デジタルヘルス

2026年1月7日にOpen AIがヘルスケアに特化したチャットのChatGPT Healthとこれを含む開発環境のOpenAI for Healthcareを発表したと思いきや、Googleが1月13日にヘルスケア専用のオープンソースLLMであるMedGemmaの強化版MedGemma 1.5を発表した。これに更にAWSが続いて、かれらの傘下の医療サービス提供会社であるOne Medicalにかれらの医療スタッフが利用できる患者の状況についてのアドバイスを行うHealth AIの提供を開始したと発表した

昨年の2025年は、Googleの研究用ヘルスケア向で診断推論のためのLLMのAMIEを高く評価する論文がイギリスの雑誌のNatureの6月12日号に掲載され話題となった。AMIEはテキスト入力を通じて会話しながら利用するが、このアウトプットは、診断内容の正確さや患者の共感力まで医師を上回ったという。

今回OpenAIが発表したChatGPT Healthは、OpenAIとして初めてのヘルスケア特化のLLMである。患者ごとの病院内外の様々なデータを総合して勘案し診療アドバイスを医師・医療関係者、患者に示すことを志向している。現在のところは画像情報は扱えない。
一方、Googleのヘルスケア特化オープンソースの強化版MedGemma 1.5の発表では、元のMedGemmaではテキストと2次元画像を扱えるマルチモーダルモデルだったが、今回新たにCTやMRIの3次元データまでそのまま扱えるように強化され画像処理での性能も元のMedGemmaを凌ぐ。

医療へのAI適用は、これまでは、会話の文書化や要約の作成などの事務処理や画像認識の分野で進んできたが、今回の一連の発表で、新たなAI機能を使うことにより今後個別化医療が大きく進化するし、大手テックがLLMをマルチモーダル化して画像も扱えるようにして(たとえばCT画像を読み込ませると診断レポートを書いてくれる)、ベンダーの業界地図もかわっていくという下記の様な大きな地殻変動を引き起こす。

1)個別化医療(医療のパーソナライゼーション)の進化
4,5年前にAppleが電子カルテ情報をApple watch側にダウンロードを可能にし、病院の内外データを患者の側に集めて患者自身による判断の余地を広げようとしたことがあった。しかし結局はこの動きは鳴かず飛ばずとなり、今回のChatGPT HealthでようやくAIが特定の人の複数の健康データを総合してみた上で健康状態を回答してくれる環境が整ったことになる。医療関係者向けにはこのChatGPT Healthも使いながらより広いソリューション構築ができるよう開発環境が提供される。いずれにせよ、個別化医療(医療のパーソナライゼーション)が大きく前進する。

2)LLMのマルチモーダル化とベンダーへの影響
汎用LLMの基盤に対するヘルスケア機能の付加部分(たとえば診療科ごとの画像解析)は、ヘルスケア系ベンチャーが独自に開発にしのぎを削ってきたが、ここにきて大手テックが自身でLLMをマルチモーダル化して画像情報もテキスト同様扱えるようになりつつある。今回のGoogleのMedGemma 1.5はCTやMRIの3次元データをそのまま扱えるようになった。診療科別の画像含めた診断を大手テックがどこまでかれらのヘルスケア専用LLMで吸収できるのか、エージェント技術もからみスタートアップとのすみわけがどうなるかは非常に興味深い。(大手テックと競い合いになっているスタートアップにとっては大変なことだが)

大手テックより一歩進んだ形でヘルスケア向けソフトを提供する会社の1つにHippocratic AIがある。彼らは、患者と医師の会話の生じる非診断部分のみにフォーカスしたAIエージェントの基本機能を提供し、診療科の個別機能は自由に開発して組み入れられる開発環境を提供する。
前回のブログで、日本でのAIの医療現場への適用事例として藤田医科大学病院の退院サマリーのドラフト自動作成をあげた。システムインテグレータと組んでLLMに独自の学習(ファインチューニング)を加えてアプリケーションを作成しているようだ。
今後、AIのエージェントも登場していく中で、医療のAIアプリケーション構築システムの基盤になるヘルスケア向けのLLMがまだまだ進化はしそうである。

今回はヘルスケア専用のLLMとして、今月発表されたChatGPT Health/OpenAI for HealthcareとGoogleのオープンソースの強化版MedGemma1.5に加え、Googleの研究開発用のAMIE、上述のヘルスケア用エージェント作成のためのLLMを提供するHippocratic AIにつき、それぞれ簡単にその特徴などを整理する。
なお、本稿を書くにあたって参考にした主要な資料を巻末にリストアップしておくので参考にされたい。

1. OpenAIのChatGPT HealthとOpenAI for Healthcare
元をたどれば一時期Microsoftが患者と医師の対話を電子カルテに書き込むというようなデモをやっていた時期があったが、その後ambient computing(会話の文書化)分野のNuanceを買収して、Nuanceの製品群がマイクロソフトのヘルスケア向けAIの代表ソリューションとなった。更にMicrosoftがOpenAIと提携後は、ヘルスケア分野のLLMが正式に発表されずにきていたが、ようやく今回、OpenAIがヘルスケア向けのLLMを発表した。
この発表では新たに下記2つが含まれている。
1)ヘルスケア情報に特化したチャットであるChatGPT Health
2)より広いヘルスケアのアプリケーションを構築するための基盤とツールとしてのOpenAI for Healthcare

(1)ChatGPTヘルスケア
ヘルスケア用のチャットだが、単に自身の現在の健康状態を簡単に入れてアドバイスをもらうだけではない。たとえば、自身の電子カルテ情報やウェアラブル機器の健康アプリ(Appleヘルスケアなど)の情報を参照できるようにしておくと、これらの情報まで勘案して問い合わせに答えてくれる。つまり、”最近の私の身体の健康状態をまとめてください”、とか”過去数年の受診履歴から選択するべき保険プランの提案を推薦する”(後者は日本では現実的ではない質問です)、などのような問いかけをすることが可能となる。
医師とともに開発され、プライバシーやセキュリティーへの配慮がされ、健康に関するデータを他の一般的なシステムと共有はしない。
病院や保険会社からの個人データの取込は、消費者向けにルアルタイムで接続された個人の健康データを安全に扱えるb.wellとの連携で実現できる。また、病院外部の個人の日常のデータについては、Appleヘルスケア、Function、MyFitnessPalなどのアプリと接続しデータを取り込める。

(2)OpenAI for Healthcare
OpenAI for Healthcareは、OpenAIのLLMであるGPT-5.2を基盤にしており、医療の臨床、研究、適用業務上のAIアプリケーション構築に使うことを想定して継続的な研究と実運用の評価を経て開発された。ChatGPT Healthも入っているが、すでに複数の米国の医療機関(ボストン小児病院、スタンフォード大医学部小児科など)でベータ利用されている。
臨床や医療事務のワークフローの中で、たとえば退院時のサマリーなどのドラフト作成、患者向け教育資料をわかりやすく整理、、患者向けの案内、臨床で利用する文書、保険の事前認証支援などの業務を再利用可能なテンプレートを整備した上でするなど、事務作業軽減のためのプラットフォームとツール類を提供する。
ChatGPTのアウトプットは、利用者が医療従事者か否かで変えるべきかと思われ、このすみわけをどのようにしていこうとしているかは興味深い。3月にラスベガスで開催される米国最大の医療ITイベントのHIMSSの展示場でぜひ確かめてみたい。

2.GoogleのAMIEとMedGemma
Googleは過去、自身の汎用LLMに追加で学習をしてヘルスケア専用LLMを提供してきた。Med-PaLMからMedLMと発展してきた流れだ。
現在は、Google自身の研究用のAMIEとオープンソースで提供するMedGemmaの2本立てで診療の支援をするLLMを用意している。AMIEはテキストベースながら診療の正確さだけでなく信頼関係の構築や共感まで優れるモデルで、MedGemmaは、画像も解するマルチモーダルモデルである。あと病院外のフィットネスや睡眠などのデータに基づく個人の健康状態管理用のLLMであるPersonal Health LLM(PH-LLM)も研究開発しているようだ。

(1)AMIE
AMIEは、医療の分野で会話相手との共感まで考慮した会話機能を持たせた推論のための実験的なAIシステムで、利用者は医療関係者と患者の両方を前提としている。Palm2(PalmはGeminiの前の世代のLLMでマルチモーダルではない)の系譜をひき診断レベルで機能を向上させてきたが、2025年3月の発表の機能強化では、マルチモーダルのGeminiのモデルの優れた点をうまく取り入れ、疾病の経過(瞬時でなく期間の)、治療の効果、安全な薬の処方や医療ガイドラインの情報に基づく推論を可能とする。
これにより単なる診断だけでなく、診断した状態の次の段階の複雑な環境の中で患者や医療関係者を助ける。
前述のように、2025年の6月のNatureにAMIEを高く評価する論文が2本発表され、注目を浴びた。医療の判断の分野でAIが人を上回るとともに患者の対話した後の印象でもAIが上回ったという評価だ。
具体的には、鑑別診断(differenetial diagnosis: 患者の症状から疾患を診断)では、予測した可能性の高いとしたトップn個の疾患の中に実際の正しい疾患が入っている確率が、AMIE単独、医者がAMIEを活用、人単独の順で高く、有意差が認められる。
また、同じ患者の時間をあけての複数回診察も想定したOSCE(客観的臨床能力試験)では、テキストによる試問のやりとりの後の医者としての患者への対応についての質問(GMCPQという医師の評価のツールの質問、医師と患者の信頼関係の構築、共感など)でもAIに軍配が上がった。

(2)MedGemma 1.5
AMIEと異なりオープンモデルであるMedGemmaは、Gemma 3(米国では2025/3に発表)ベースにできたヘルスケア専用LLMであり、このLLMの上に放射線画像の分析や医療データのサマライズを行うようなアプリケーションを構築することを前提にしている。 今年の1/13に強化版のMidGemma 1.5 4Bが発表されたが、まず、複数あるMedGemmaの各モデルのカバー領域を示す。(モデル名の後の4Bなどは、モデルのパラメータ数を表しており、パラメータが4B(40億)個あるということである。)

  (図1 MedGemma各モデルのカバー領域 ソース:https://research.google/blog/next-generation-medical-image-interpretation-with-medgemma-15-and-medical-speech-to-text-with-medasr/ )

MedGemmaは、パラメータ数が4Bと27Bの2つあり、先日の発表では、この内の4Bのモデルの方がMedGemma 1.5として強化された。このMedGemma 1.5 4Bでは、画像処理の機能が大幅に強化され、CTやMRIのような3次元の画像を直接扱えるようになった。また、病理のWSIの複数のパッチでの画像入力や時系列のX線写真の変化の読取が可能となり、電子カルテなど医療用の文書読取能力も向上させた。これと同時に、話し言葉をインプットとする医療専門の聞き取り機能のMedASRもオープンモデルとして発表した。
以前からあるMedSigLIPは、ヘルスケア専用の画像の軽量エンコーダーであり、画像処理の種類によっては、MedGemmaのマルチモーダルモデルより高い性能が得られると1月の発表以前は言われていた。

3. Hippocratic AI
このHippocratic AIは、米国の医療ベンチャーで、2023年2月に会社を設立ながらすでにユニコーン(企業評価額が10億ドルを超える)となっている話題の企業である。
起業家のMunjal Shah氏が創設者兼CEOであり、大学、病院、ITベンダー(Google、NVIDIA)とともに設立。その後、米国で超一流のVCから既に3回の資金調達を経て合計で4.04億ドルを調達し、この結果35億ドル(約5,500億円)の企業評価になっている。
Hippocratic AIは、自社独自のPolarisと呼ぶ、中規模のヘルスケア専用LLMを提供する。Polarisは、これまで人が対応してきた診断ではない医療業務に対応するマルチAIエージェントで外部インタフェースは音声会話である。2025年10月にPolaris 2.0という強化版を出した
世界ではじめて安全第一をモットーにしたコンステレーション(星座)システムと呼ばれるシステム構成をとり、診断全体の流れをコントロールするプライマリーエージェントと専門分野に対応して各分野の安全性も高める複数のスペシャリストサポートエージェントからできており、下記の様な機能を持つ。また、正確性・安全性は汎用のLLM(LlamaとかGPT4)を大幅に凌ぐという。

1)患者との会話に限定したAIエージェント機能の提供
・ 以下の専門分野ごとのスペシャリストサポートエージェントの提供
  手術前、慢性ケア管理、退院後ケア、栄養士、介護施設、製薬の臨床試験
  コーディネーション、患者教育、ケア移行チェックイン、ウェルネスコーチング
・ 会話での患者対応に限定されるが、対象者の範囲は、医療機関、保険会社、製薬会社、会社の福利厚生担当と幅広い。
2)アプリストアの提供
 ・ 臨床医が容易に自身で患者ケアや運営上の課題を解決するためのAIエージェントを設計・構築できる環境を提供する。
・この成果物は、有償利用前提でHipocratic AIが用意しているアプリストア上に公開可能。開発者の臨床医にも金銭的に報いる仕組みを提供している。
   

(参考情報)
1.OpenAI関係
1)ChatGPR Healthの発表文(2026/1/7)
https://openai.com/ja-JP/index/introducing-chatgpt-health/
2)OpenAI for Healthcareの発表文(2026/1/7)
https://openai.com/ja-JP/index/openai-for-healthcare/

2.Google関係
(1)AMIE
1)強化発表(2025/3/6)
“From diagnosis to treatment: Advancing AMIE for longitudinal disease management”
https://research.google/blog/from-diagnosis-to-treatment-advancing-amie-for-longitudinal-disease-management/
1)AMIE評価の論文(June 12, 2025  Vol. 642  Nature)
“Towards conversational diagnostic artificial intelligence”
https://www.nature.com/articles/s41586-025-08866-7
2)AMIE評価の論文2 (June 12, 2025  Vol. 642  Nature)
“Towards accurate differential diagnosis with large language models”
https://www.nature.com/articles/s41586-025-08869-4

(2)MedGemma
1)2025/7/9
”MedGemma: Our most capable open models for health AI development”
https://research.google/blog/medgemma-our-most-capable-open-models-for-health-ai-development 2)2026/1/13 (MedGemma 1.5発表)
”Next generation medical image interpretation with MedGemma 1.5 and medical speech to text with MedASR”
https://research.google/blog/next-generation-medical-image-interpretation-with-medgemma-15-and-medical-speech-to-text-with-medasr
3)MedGemma 1.5 4Bの詳細
GoogleのウェブサイトのMedGemma 1.5のモデルカード
https://developers.google.com/health-ai-developer-foundations/medgemma/model-card
4)MedGemma 1.5 4Bの強化機能の日本語解説(Weelという日本のAIスタートアップサイト)
  https://weel.co.jp/media/tech/medgemma-1-5/ 

3.Hippocratic AI
(1)Hippocratic AIのベースとなりconstellation systemと呼ぶLLMの新版Polaris 2.0の発表文(英文) (2025/10/1)
https://hippocraticai.com/polaris2/
(2)最初のPolarisの解説論文(2024/3/20)
“Polaris: A Safety-focused LLM Constellation Architecture for Healthcare” 
https://www.alphaxiv.org/ja/overview/2403.13313v1