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欧米での医療画像のAI診断への適用状況
ヘルスケアへのAIの適用ということでは、創薬と医療画像の分野が先駆者です。
今回は、医療画像分野へのAI適用につき、いくつかの具体的なツールをご紹介し、現状を皆さんと理解して、今後の課題も認識したいと思います。
IT屋から見ると、AIツールは、汎用のものから業種特化のものを整備する段階に進んできています。これをまとめるにあたり、医学部の放射線科で実際AIを使っている先生にもヒアリングさせて頂きました。
(1)AIによる医療画像の診断
米国では、近年、医者だけでなく放射線技師の過労(米国ではburnoutと言っています)も社会的問題になっています。2016年に現在のAIの主流になった深層学習の実用化の基礎を築いた当時トロント大の教授だったGeoffrey Hinton氏が、”5年とか10年のレンジで深層学習は放射線科の読影能力を超え放射線技師の育成は不要になる”とのような発言をして医学会をも騒がせました。
確かに、2021/9時点で、FDA(医療機器を承認する米国の政府機関)が承認したAI/MLを利用した医療機器350弱の内70%が放射線関係と大多数を占めています。(https://www.fda.gov/medical-devices/software-medical-device-samd/artificial-intelligence-and-machine-learning-aiml-enabled-medical-devices に一覧表あり)
ただ、現実には、そう簡単にはことは進んでおらず、放射線技師や医者の診断を支援できるアルゴリズムが分野ごと(脳とか心臓とか)に開発されつつあるという段階で、個々の活用はある程度進んでいるとは思いますが、既知の複数の診断ソリューションも利用でき、さらに、これらをベースに新しいアルゴリズムも開発でき実際に利用できるようにするシステム環境は、残念ながらまだほとんど存在しないようです。
(2)MONAI
そこで、具体的に医療画像のAI分析のシステム開発のツールというと、オープンに情報公開されているもので、MONAI (Medical Open Network for Artificial Intelligence) があります。
これは、オープンソースの医療画像用の深層学習フレームワーク(FW)で、画像の分析のAIアルゴリズムの開発から展開までを行なうことができます。今も鋭意開発中で、機能も徐々にリリースされてきています。元はITベンダーのNvidiaとKing’s College Londonにより開発が始められました。現在は、世界の名だたる医療機関・大学の多くをエコシステムメンバーとして迎え入れた産学共同の形で開発が進められています。
機能として大きくは、ラベリング、コア(モデルを作る部分)、デプロイの3つに加え、Nvidia FLAREという連合学習 (Federated Learning) の開発ツールも提供します。
ちなみに、コア部分には、次の図で示すように実績ある多くのアルゴリズムが組込まれています。
(出典:GTC 2022(春)セッション “HCLS Dev Summit: Building an Open-source
Foundation to Fuel R&D Innovation”,
https://www.nvidia.com/en-us/on-demand/session/gtcspring22-s42639/ )
なお、2022/3時点のリリース予定は下記の様であった。
コア: v1.0 2022年秋、ラベリング: v0.5 2022年秋、
Deploy: v0.4 2022年夏、Flare: v2.1 2022年夏
なお、Nvidia もNvidiaのClara(ヘルスケア向機能)下でMONAIをリリースしています。
実は、先週開催されたGTC 2022(秋)で、MONAI 1.0のリリースが発表され、更に新しい情報が提供されています。( https://www.nvidia.com/ja-jp/gtc/session-catalog/?tab.catalogallsessionstab=16566177511100015Kus&search=MONAI#/session/1655878347245001zqAu )
多くの著名な医療研究機関や病院(ドイツガン研究センター、King’s College London、
MGH(マサチューセッツ総合病院)ならびにNvidia、スタンフォード大学などがMONAIを採用しており、さらに、ハーバード大、Mayo Clinicなど医療機関やパブリッククラウドトップ3社を含めたインテグレーションパートナーとエコシステムを形成し、開発を行っています。
実際のMONAIの展開では、The London AI Center*の例があります。ここは、病院が使うOS (Operating System)だと彼らが呼んでいるAIDE (AI Development Engine)を開発・展開しており、AIによる画像分析の部分にMONAIを使っていますが、次の図がAIDEシステムのイメージです。
*The London AI Center: イギリス政府がファンディングし、英国の国の保険システム下の医療画像と患者のデータ(電子カルテ情報など)からAIを使って脳卒中、認知症、心不全、ガンを含む病気の診断のスピードアップと診察の質の向上を図ろうとする団体。King’s College LondonとGuy‘s and Thomas’ NHS Foundation Trustを核に産学と医療機関団体が連携して活動。
(出典: https://www.aicentre.co.uk/platforms)
すでに、ロンドン、及びイングランド南東部に昨年8月から徐々に展開を進めている。
(3)Rad AI
前述のMONAIとは異なった種類のツールも1つあげる。
Rad AIのものだが、2018年に設立されたばかりのスタートアップで、まだ情報も少ない。主力製品のRad AI Omniは、人が読影しながら口頭で説明した内容をききとり、その結果を整理して文章化してくれるというもの。放射線技師が、現在のワークフローに組み込むことができ、これを利用すれば、1日あたり1時間の時間短縮が行えるというのが会社側の説明。
もう1つ、Rad AI Continuityでは、放射線技師による読影で問題あった場合に、医師が対応を忘れる、もしくは気づかないというようなことを避けるため、必要に応じ電子カルテ(EHR)システムなどとも連動しながら、医療業界のガイドラインに沿い、次の処置のレコメンデーションを出す。
(4)更なる発展を求めて
主として、AIアルゴリズムの進化・適用分野拡大の視点と、すでに開発されたAIアルゴリズムをいかにうまく共有して効率をあげるかの視点があります。
AIアルゴリズムの進化は続いていますが、その一例は、9/15にnature biochemical engineeringにスタンフオード大とハーバード大が発表したもので、下記の2つの内容を含みます。これらで学習用データへのラベル(正解)付けの手間を省き、さらに汎化(汎用化)や抽象化が苦手のAI/機械学習にとり希望の光が差してきます。
1)胸部のX線写真をラベル付けなしでの自己教師あり学習(self-supervised learning)で学習した
モデルを使って、肺の病気の分類すると放射線技師と同等の精度で行えます。
2)このモデルを使うと、本来意図していなかった診断や放射線関係の事項の検出の予測
にも役立ちます。(AIの世界ではより広く汎化(generalization)と呼ぶ現象です)
このようにアルゴリズムの進化も続いています。
また、多くの開発されたアルゴリズムを多くの医療関係者の間で共有していくとのようなアプローチは、ここでとりあげたAIDEの例がありますが、まだこれから発展させるべき領域です。
更なるアルゴリズム研究やアルゴリズムの開発・統合管理のプラットフォームの進化に期待できそうです。
- PROFILE
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柴柳 健一
大手ITベンダーでの海外ビジネス、アライアンス事業の経験を活かし米国最先端ICT技術の動向調査、コンサルを行っている。
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