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医療情報の開示・連携 その1 米国編

2023.02.06 デジタルヘルス

 DXが進む時代、素直に考えれば、世の中に散らばっている個人の医療情報や心身の健康に関する
データを蓄積し、1か所に集めて参照できれば、医者による診断の質も向上するだろうし、個人に
とっても治療をうけたり健康を維持するための重要な情報が得られるのではないかと思われる。ところが現実には、複数の医者にかかるとそれらの電子カルテのデータは別々の場所に分散され、医者の側も総合的に判断することは難しい。 
今回は、このような現状から踏み出すことで先行している米国の状況をご紹介したい。
次回は日本の状況を見てみたいと思う。

米国では、電子カルテの標準化が比較的早く行われ、政府による電子カルテ情報の開示の法制化も
2020年3月になされ、医療情報連携のための標準化(最新のものはFHIR)を利用した病院グループ
内外のデータのやりとり、個人への情報提供も進んでいる。

(1)医療情報連携の標準化
 米国は、医療文書情報のデータ連携のための標準化の国際規格のHL7を自ら積極的に作り実際実装
してきた。1987年からテキストベースのV2、その後変遷を経て、2012年には現在の標準のWeb通信
ベースのFHIR (Fast Healthcare Interoperability Resources)へと発展してきている。画像を対象とするものはDICOM (Digital Imaging and Communication in Medicine) である。

(2)電子カルテ情報の必要な場合の開示
 米国では、病院の中に閉じ込められている電子カルテデータを必要に応じて開示することを義務
付ける法制化が米国政府HHS(保健福祉省)の傘下組織(ONC及びCMS)により行なわれ、2020年
3月9日に以下2つの発表があった。但し、実際にこれらを満たすための準備期間が設けられた。
 1)電子カルテデータ(EHR)は、サードパーティからAPI(アプリケーションインターフェース)
   でアクセス可能なこと。
 2)電子カルテシステムやヘルスケアシステムは必要性のありそうな場合は外部へのデータ提供を
   拒否できない。
 患者が必要な時に、必要な方法で、必要な場所で記録全体を閲覧できることをまず第一の目的としている。  

(3)病院内外のデータのやりとり
  以下のような仕掛けを通して病院内外のデータのやりとりができる。
 1)FHIRのアプリケーションインタフェースを利用してのデータのやりとり
  病院内のシステム間では、FHIRを利用してシステム間連携をはかることができる。
  これを推進するため、SMART on FHIRというFHIRの手順に従ってオープンで無料で使える
  標準化されたAPIが用意されている。これには認証・認可への対応も含んでいる。
 2)院内の医療情報を1か所(たとえばクラウド)にまとめて相互利用
  - 病院内の情報を1か所にまとめるデータベースを作って、病院内でのシステム間の情報共有、
   連携を容易にする動きはすでに活発に行われている。
– 具体的な製品は、独立系のソフトウェアベンダーのInterSystemsなどのほか、ここ1年
   くらいで各パブリッククラウドベンダー(AWS、MicrosoftのAzure、Google Cloud)が
   ヘルスデータサービスとして提供している。
データはFHIR、DICOMの形式で保存する。
3)病院内外の医療情報連携
    – 政府(ONC)が設立したNPOのSequoia Projectが、全国横断の医療情報交換システムである
eHealth Exchangeを運営している。歴史は古く、2012年にさかのぼる。やや古い資料からの
引用だがeHealth Exchangeの仕掛けは下図のようになっている。
  - 最近の情報では、このeHaelth Exchangeは月間13.5億件の情報提供リクエストを受けるまでに
なっている。また、全米の75%の病院が利用し、全米の州で使われ、61の地域や州の医療情報
交換システムと接続している。

 (出典)諸外国における医療情報の標準化動向調査 (厚労省がBCGの報告を引用、2019/3)  

4)個人とのやりとり
– 病院の導入している電子カルテのシステムは、通常、スマホから自身が病院でうけた診察や検査の
結果の情報をみることができるものが多い。
– 個人ごとの健康データをまとめて提供するような国の動きは米国にはない。
但し、Medicare(政府の提供する65歳以上の高齢者向保険)に入っている人や退役軍人はBlue Button
 のシステムを通して自身が過去にかかった医療の履歴情報などをみることができる。上の表にも
 記載されている。

 今後に向けては、データ活用では、病院外での患者の状況をいかに病院での診察に反映させるか、
標準化では、実際に交換・提供するデータの構造や用語の統一が重要な課題となると思われる。

特に前者についてだが、コロナもあったのでリモートからの患者のモニタリングが徐々に浸透しつつ
あり、電子カルテの情報をApple watchへダウンロードしたり、逆にApple watchのヘルスケア関連
データを電子カルテシステムにアップロードすることも可能になってきた。病院での患者ケアのワークフローに病院外のデータの取込も入れて総合的に医療判断・治療を行っていくフェーズに入ってきていると思われる。