放射線医療でのAI活用をRSN ...-ICT技術調査 デジタルヘルス情報提供-株式会社テックナレッジハウス
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放射線医療でのAI活用をRSNA2024からみる – 第1回 AI活用の現状 –
12/1から12/5北米放射線学会の年次総会であるRSNA 2024にシカゴで参加した。私が参加するのは今回が初めてである。今年は3万9千人が参加登録というが、世界最大の放射線関係のイベントだ。
キーノートスピーチ(RSNAではPlenary Lecture)のほか、860の論文のセッション(研究テーマでも必ずしも論文提出は必要なくプレゼン提出だけでよい)、722の会社・団体による展示などにぎやかに開催された。

(写真1) 会場内での大きなイベント名表示(記念撮影場になっていた)
全体の話題としては、放射線のワークフローの中で画像解析含めたAIの活用による診断精度向上と効率アップが、生成AIも登場したこともあり、最大の関心事であった。
医療分野のAI活用では、放射線の領域の画像診断が最も進んでいるといわれている。
今回は、IT屋から見た放射線医療画像診断の最前線につき特にAIの活用につき私の受けた印象を下記の3つにまとめて説明する。
1)AIによる診断ツール適用の状況で目に留まった発表
新領域としての高濃度乳腺のガン検知率改善、昔からあるが普及が十分でない肺結節の検出での効果測定、及び画像診断AIモデルでのアルゴリズム開発の民主化検証の3つについての発表につき簡単に説明する。
2)大手放射線機器メーカの動向
機器ではフォトカウントCTへの注目など、あとソフトウェア領域はPACSからの拡大につきSiemensやGEの例を入れながら説明する。
3)スタートアップ系がひしめくAIを利用した医療画像診断ソフト業界
器官ごとに開発されるAI診断ソフトとその束ねを志向する会社の出現につき説明する。
生成AI含めたAI活用の将来展望については次回に触れたい。
なお、AI画像診断ソフトは、それぞれ販売を意図する地域のデータで学習するのが基本であり、米国で開発されたものが日本でそのまま使えるわけではないし、それ以前に医療機器としてのに認定は、ご存じのように国、地域ごとに行われる。
1.AIによる診断ツール適用の状況で目に留まった発表
器官別のAI診断ツール導入の評価、効用の測定、開発方法改善につき、それぞれ実際の発表から1つずつ紹介する。
(1)高濃度乳腺(デンスブレスト)の場合の乳がん検査の改善
(セッション名、発表名、発表者)
セッション名:Breast Imaging (Supplemental Screening of Patients with Dense Breasts
発表名:IMPROVING CANCER DETECTION IN DENSE BREASTS IN BREAST SCREENING PROGRAMS: THE COMPLEMENTARY STRENGTH OF AI AND HUMAN INTELLIGENCE
発表者:Kheiron社(下で説明)のSenior ScientistのAnnie Ng, PhD)
(概況)
– マンモグラフィで検出が難しいと言われる高密度乳腺(デンスブレスト)の場合に、人の読影に加えてAIツールを使って検出率を改善したとの発表があった。
(調査方法)
– イギリスで遺伝子が異なる3地区での検証で、50歳から70歳の女性を3年ごとに検診した2017年から2021年のデータを活用。236千人の306千件のデータ。
– マンモグラッフィの画像からAIで検出するAIツールの歴史はまだ長くなく、この分野では草分けのKheiron Medical Technologies社(現在はDeepHealth社の傘下)のMiaというツールが使われた。
(結果)
-乳腺密度は、236千人の中で、脂肪性が58.2%、高密度が41.8%。
検診でガンのみつかった人は2,588人、検診でない場で見つかった人379人、合計2,965人。
-人の読影とAIツールの比較では、脂肪性の場合は人の方が検出率はやや高いが、高密度の場合はAIツールの方がずっとよい検出率となる。
人が2人での読影と、人1人とAIツールの組合せの比較の場合は、検出率にはほとんど差はないが、再検討に至る(recall)率やpositive predictive value(positiveであると予想される場合に実際に病気である率)ではAIが勝り(recall率が低くPPVは高い)、しかも人の読影負荷が42.5%も削減される。
(2)肺結節検出のAIプログラムのワークフロー観点での有用性
(セッション名、発表名、発表者)
セッション名:Chest Imaging (Lung Nodules)
発表名: WORKFLOW EFFICIENCY BENEFITS OF A LUNG NODULE DETECTION AI PROGRAM
発表者: トマスジェファーソン大学の放射線科教授でMDのBaskaran Sundaram氏)
(概況)
-肺のCTからのがん結節検出のAI(深層学習)ツールは、医療画像診断の最も早い時期からあるが、医療のワークフローに組み入れたときの価値が十分実証されていないことも一因で、普及のスピードは非常に遅い。
– 肺結節のAI検出アルゴリズムを通常の医療のワークフローの中に取り入れると、読影に必要な時間が劇的に減らせることを調査で示した。
(調査方法)
– IRB (治験審査委員会) の承認をとったパイロット研究で、米国の9人のコミュニティで活動している放射線技師の読影時間を90日間のデータを用いて評価した。
– 利用したAIツールは、InferVision社のFDA承認を受けたInferRead Lung CTというツールを使った。機能としては、肺のCT画像から肺結節を自動で読み取り、直径や容量などの肺の結節の特性をレポートする。
-この評価では、結果の正確性の点は評価しない。
(結果)
– 肺のCT画像で、
1)AIツールを使わなかったのが1,192のケースで平均読影時間は13分、ピークは8分から10分の間
2)AIのツールを使ったケースは738あり、平均読影時間は12.2分、ピークは6分から8分の間
– 読影時間は、マン・ホイットニーのU検定で相当程度の差異があると判定された。
(3)MRIの画像診断AIツールの開発民主化の検証
(セッション名、発表名、発表者)
セッション名:Imaging Informatics (Cutting Edge Radiomics Research)
発表名: THE POTENTIAL OF GPT-4 ADVANCED DATA ANALYSIS (ADA) FOR RADIOMICS-BASED MACHINE LEARNING MODELS
発表者: ボン大学病院コンピュータ放射線学・診療AI部のMartha Foltyn-Dumitru MD)
(概況)
-神経膠腫において、予知や治療のために必要なその分類を、侵襲性の生体検査でなく、MRIデータのAIによる診断で行う方法が代替の方法として脚光を浴びている。
-この診断アルゴリズムを、人が作成するのでなく、ChatGPT-4のAdvanced Data Analyticsを使って自動的に生成する方法で作成し、このアルゴリズムの有効性を示した。
-ポイントは、データさえそろえれば、自動でモデル生成してくれるので、AIのコーディングができない放射線技師でもモデルが作成できること。
(結果)
-人が作ったモデルとChatGPT-4を使って自動作成したモデルと比較して正確性(accuracy)では人の作成したものを上回ったという。
– ただ、現実に使うとなると、データが傾向が異なる複数のクラスのデータから成る場合に、特定のクラスのデータ不足からくるモデルの不正確性の問題などAIモデルのワークフローを考えるとまだ検討を要することがある。
2.大手放射線機器メーカの動向
グローバルの放射線機器ベンダーは、展示会場での広さからみても、Siemenes、GE、Phillipsがビッグ3かと判断できる。日本のベンダーは、キャノンがこれらに次ぐ規模だったと思う。富士フィルムも勿論参加していた。
放射線機器ベンダーは、機器に加えPACSという画像管理システムも持っている。
今回の展示で、Siemensは、機器などのソリューションごとの展示に加え、Siemensのソリューションをあまり知らない人向けに クリニカルパスウェイというコーナーで、患者が病院にかかる流れの中でのそれぞれのフェーズ*でシーメンスの提供するソリューションを紹介するコーナーを作っていた。
*:1. 検査と早期発見(Screening and Early Detection)
2. 診断と治療方針決定(Diagnosis and Therapy Decision)
3. 診療でのガン評価(Clinical Tumor Assessment)
4. 治療の計画作成と実施(Treatment Planning & Delivery)
5. フォローとガンとの共存(Follow-up & Survivorship)

(写真2)Siemensの展示 一番右が上記説明の3. Clinical Tumor Assessment
AIの活用は、各放射線機器ベンダーとも、ワークフローの様々な部分で使われるようになってきており、たとえばCTでみると、ここ数年、各ベンダーの機能強化・性能改善が続き、患者のセットアップ、測定など作業工程の手順化、画質向上、放射線量の削減、ワークフローのスピードアップなどにつながっている。具体的に例を示すと、GEのケースであれば、深層学習を使った画像再構成技術のTrueFidelity DL・True EnhanceDLや検査開始から終了までのタスクを自動化し簡素化するEffortless Workflow(寝台上の天井に設置するディープラーニングカメラユニットも使う)がある。MRIでもAIは画像の再構成などで利用され、GEでいえばAIR Recon DLという技術である。
機器の観点では、放射線機器もまだ進化をとげている。
CTで注目を集めているのは、相変わらずフォトカウンティングCTとCCTA(冠動脈コンピュータ断層撮影血管造影)対応のようだった。フォトカウンティングCTは、価格は高いが、従来型と比べて各段に画像精度が良くなる。しかし、大手3社の中でで製品化しているのは相変わらずSiemensのみ(Siemensは2022年に発表)。あと、キャノンも提供する。また、ここ数年でCCTAの機能を持つCTの需要がのびており、いくつかの新機種も発表され、対応するAI機能強化(たとえばGEのTrueFidelityDLのCardiac CT対応)も続いている。
MRIの方もAIを使った機能・性能改善は続いており、GEは高速撮影技術のSonic DLを3D撮像へ拡張した。あと磁気の冷却システムに使用されるヘリウムの利用量削減の流れでは、フィリプスがリードしているとのことであった。
放射線機器ベンダーは、自社開発のみでなく、この次の3.で説明するような外部の会社のAI診断ツールを自社ツールと併用する場合もある。フィリップスは、アルツハイマー病や多発性硬化症のような脳神経系の兆候を読み取るAI技術を持つicometrixや前立腺がんで画像のバイオマーカのプロであるQuibim*とのパートナーシップや米国の著名な病院のメイヨー・クリニックとの心臓向けのMRI AIの共同研究を行うことを発表した。
*: Quibimは、前立腺のほか、脳、肝臓の器官についてのAI画像診断ソリューションも提供する。
画像管理ソフトのPACSも、IT系のデータ統合の流れに呼応して大きく進化しつつある。Siemens のSyngo Carbonは、統合型医療情報プラットフォームと位置付けられ、接続された放射線機器の撮影した画像(非DICOM画像でもよい)を管理するだけでなく、この画像のポスト処理(AIも使い器官のセグメンテーションや大きさの割り出しなどを行う)、3台までのスキャナーのリモート操作、表示ではシネマティックレンダリング、研究開発での利用環境、レポーティングなどの機能まで持つ。
一部病変検出の機能まで持っているようだが、病変検出は器官ごとに多くのスタートアップ系のソフトベンダーが取り組んでおり、これらについては3.で説明する。
3.スタートアップ系がひしめくAIを利用した医療画像診断ソフト業界
ヘルスケア分野でのAI活用は、画像診断の分野が最も進んでおり、米国の医療機器の認定を行うFDAの審査では1,000ものAI診断アルゴリズムが登録されているが、この内80%近くが医療画像診断に関するものだ。ただし、生成AIを使ったアルゴリズムでまだ承認されたものはない。
IT屋の私が展示をみるに際し特に気になっていたのは、AIによる医療画像診断システム開発に取り組むスタートアップもずいぶん増えてきたが、これらのシステムは通常器官別に提供される。これに伴い、使う側(病院など)からみると、器官別に別々の会社から購入したり、その後の管理や利用も異なる開発元のツールでは大変ではないか、ということであった。
今回展示を見て、複数の会社のAI診断ソフトウェアをまとめて扱うようなCARPL.aiとかBlackford(2023/2に製薬会社のBayerが買収)という会社も出展していた。
米国のCARPL.aiは、下の写真3のように、器官ごとのAI診断ソフトを140以上提供できるプラトフォームを持つ。(各社のソフトの販売権を持っているようである。)
プラットフォーム機能でのPACSベンダーとの提携も進めており、今回のRSNAではPACSベンダーのAGFAはCARPL.aiのプラットフォームの導入を発表した。
これにより、AGFSのPACSのユーザは、140以上ものAI診断ソフトウェアに容易にアクセスできるようになる。また、Phillipsも自社システムから使えるAI診断ソフトを拡充するため、まずブラジルからこのCARPL.aiのプラットフォームの活用を始めた。

(写真3)CARPL.ai展示ブースの表でCARPL.aiからアクセス可能な診断ソフト一覧
あと、BlackfordもCARPL.aiと同様のプラットフォームの提供を行って、140以上のAI診断ソフトにアクセスできるといっている。
ちなみに、Blackfordのポートフォリオは、下の表1のようなものだ。

(表1)Blackford社のプラットフォームのAIポートフォリオ(https://blackfordanalysis.com/)
詳細は、https://blackfordanalysis.com/our-ai-portfolio
なお、このようなツールを開発から展開まで行えるAIプラットフォームはNvidiaなどが推進しているオープンソースのMONAIが知られているのは2024年5月7日のブログ(ヘルスケアへのAI適用の変化 -NVIDIAの年次イベントGTC2024で紹介されたソリューションと事例から-)などでご紹介したことがある。このRSNAでは、NvidiaはSiemensがこのMONAI Deployの採用を決めると発表したが、これにより医療画像AIワークフローの臨床展開への統合が容易になる。
ここからは、AI画像診断ソフトウェアベンダーの中で、複数の領域(器官)のソリューションを提供する会社をいくつかあげる。
① DeepHealthと傘下のKheiron
北米で放射線撮影のサービスを提供する最大の会社RadNetの傘下で米国のマサチューセッツ州本社。上の写真3のように複数の器官(脳のCT、肺のCT、前立腺)のAI画像診断ツールを提供する。昨年10月には、ロンドンベースの乳がん(Breast Cancer)のAI画像診断ツールの会社であるKheironを買収しこの分野を強化した。
② 韓国ベンダーのLunitとVuno
1)Lunit X線での肺、マンモグラフィーでの乳ガン検出、ガンの病理画像分析のソルーションを提供し、昨年は、ニュージーランドの同業者のVolparaを昨年買収しマンモグラフィーでの米国市場拡大のベースを獲得した。
2)Vuno (脳のMRI、肺のCT、胸部X線、骨のX線の画像診断ソフトを提供する。
③ その他複数器官の分析ソリューションを提供する会社
United ImagesやClariπなどがある。
- PROFILE
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柴柳 健一
大手ITベンダーでの海外ビジネス、アライアンス事業の経験を活かし米国最先端ICT技術の動向調査、コンサルを行っている。
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