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RSNA 2025にみるCXR読影自動化是非とAll of USコホート
昨年の11/30から12/4にシカゴで行われたRSNA 2025には今年は現地では参加できずオンデマンドで視聴した。個人的事情もあり随分時間がたってしまったが、キーノート(RSNAではPlenary SessionとかPlenary Lectureとか呼ばれている)の雰囲気をお伝えし、その後、一般セッションの中でIT屋の私から見て特に興味を引かれた胸部X線画像のAIによる診断自動化の是非についてのセッションを簡単に紹介したい。
1.キーノートで気になったところ
オープニングセッションでのRSNAの会長(但し会期中に次期会長が発表される)のUmar Mahmood氏が今回のテーマである“Imaging the Individual”につき説明。放射線学が診断のためのものから個人に合わせた診療のためのものに進化するのに大きく貢献するとした。AIはその過程で大きな役割を果たす。今後、画像データを遺伝子情報や電子カルテ情報と統合することによってAIは、医師が個人に合った治療計画を作成するのを支援できるようになるというのが最大のメッセージだったかと思う。
オープニングのキーノートセッションの中で、私自身も2023/12/26のブログ“ヘルスケアデータの大規模収集 その1: 欧米の例”で紹介した米国で国立衛生研究所(略称NIH)が行っているAll of US Research Programの現状の説明があった。(説明者は、この研究プログラムのChief medical and Scientific OfficerのGoeffray Ginsburg博士)このAll of USプログラムは、米国の百万人に及ぶ国民の健康に関する情報(環境、ライフスタイル、遺伝子等)を集め、国民の健康に関する研究に対し情報提供するものである。2018年から始まり、すでに87万1千人のデータを集めたという。集めているデータは、電子カルテ、遺伝子、ウェアラブルデバイスからの情報、参加者への調査による情報など幅広い。提供されるデータについては、ここに詳しい解説がある。
https://www.researchallofus.org/data-tools/data-sources/
ここに説明されているそれぞれのデータをグラフ化したものが下の図1である。

(図1)All of US Research Projectで集められ公開されているデータ(データ種類別)
2025年は2月21日の実数、2026は公開予定の数でこれはこのセッションで公開された。
https://www.researchallofus.org/data-tools/data-sources/
DNAの情報については、既に27万人に結果を返したという。
現在まだ画像情報の公開はないが、画像情報をこれから揃えようとする段階で、まずは5千人からカラー眼底写真、OCT、OCTアンギオグラフィの画像取得を始めると2025/5に発表した。今後、RSNAとも相談しながら更に画像情報収集を拡充したいとのことであった。
このALL of USの蓄積したデータを使った研究は、2025年の11月現在で1200の機関(うち少なくとも100は海外)から2万人が利用し、1,100のすでにレビュー済みの論文が発表されている。
2.注目したセッション
IT屋としての私が最も注目したセッション”Should AI autonomously interpret radiographs?”というセッションでは、4名の放射線医が胸部X線写真の診断を自動化できるかにつき、各人の立場を説明した。日本でも胸部X線画像の診断補助でAIソフトは広く使われるようになってきていると理解しているが、ここでの議論は、生成AIがでてきて、生成AIが診断レポートのドラフトまで作成してくれるようになり、ここまで含めて完全自動化できるか、というものである。
結論としては、全体として完全自動化はしたいが難しいということだと思うが、以下に簡単に説明する4名からの発表は考え方そのものは色々あって興味深い。診断はCTの性能向上もありCTへ流れつつあり、胸部X線写真は限られた別用途でというのが現実的な方向性のようにみえる。
インペリアルカレッジロンドンの神経科医のSharriar Islam博士は、NHS(イギリスの国営医療保険サービス)での放射線科医としての経験から、放射線の労働力(技師とコンサルタント)は、必要な数の増加に追いつけない状況がしばらく続きそうだと述べた上で、AIによる読影の技術レベルにつき語った。自動化を進めたいところだが、今はまだ研究段階であるというものだ。実際、かかりつけ医からの紹介者の中から肺がんだと怪しまれる人を検出するAIソフトの精度や誤診の確率についてエヴィデンスがない。また、同様にかりつけ医からの紹介者の中で写真上で肺がんだと指し示す機能の正確性についてもはっきりしない。
胸部X線画像のAIの活用でコスト削減をはかるには、完全自動化するしかないのだが、まだ研究段階だ、との結論だった。
ペンシルヴェニア大医学部の放射線科準教授のSaurabh Jha医学博士は、方向性としては完全自動化であると主張した。胸部X線写真では、小さい病変を拾えない、うつっているものの特定が難しい、診断する人により結果にばらつきがあるなどの問題に加え、コンテキスト情報(たとえば血液、膿、水分など)が得られない。しかも医者が診断支援で使うのは日々性能向上の続いているCT画像の方になってきている。このような状況で、胸部X線写真は、最近は、どちらかというとプロセスを次に進めるためのチェックに使われている。たとえば、NGチューブを利用するときなどである。
また、診断にAIソフトを用いる場合、よくAIは診断の補助で最終決定は医者でというのだが、Jha博士は、NBERのNikhil Agarwalほかによる論文(”COMBINING HUMAN EXPERTISE WITH ARTIFICIAL INTELLIGENCE: EXPERIMENTAL EVIDENCE FROM RADIOLOGY”)も引用しながら、AIを中途半端に使うと、人とAIで判断が異なるときに無駄な確認の時間がかかり、正確さではAIだけの判断、もしくは放射線科医だけの判断の方がよくなると説明。AIを活用して工数削減をはかるなら、複雑性の少ない所にAIを使って、その部分は完全自動化すべき、との結論であった。
また同じペンシルヴェニア大医学部の放射線科名誉教授(おそらく)のEarren Gefter医学博士は、今の技術レベルではAIによる診断の完全自動化は無理で、AIと放射線科医が協調して取り組むべきと主張した。完全自動化は近い未来にはかないそうもない夢(英語で”pipe dream”)だとも言った。AIは写真だけではコンテキスト情報もなく、ハルシネーションのおこることもあり人に比べ推論の力も劣る。FDAがこれまでに承認した1000にも及ぶ放射線関係のAI製品でAIによる自動画像診断の機能を持った製品はまだない。
スタンフォード大学の放射線科医Eun Kyoung Hong女史は、実際のコホート調査で、AIによる自動作成の診断レポートの評価を行った結果、下記の様な報告が出ているとのことであった。
1)15%から20%のケースでハルシネーションや支持できない内容が含まれる。
2)ワークフローの中にAIが作成するドラフトレポートの利用を組み込むと全体で15%の時間削減が
はかれる。
3)AIが作成したレポートを64%の放射線科医がそのまま利用した。
更に、AIの安全性でも、AIモデルによる正確性、AIの作成したレポートの過剰信用(放射線科医による)、法律的な責任の所在の明確化が必要と締めくくった。
2)のAIが自動作成したレポートの利用による放射線科医に必要な読影時間の削減については、以下の2つの論文が参照された。
まず、Jonathan Huang他の論文、”Efficiency and Quality of Generative AI–Assisted Radiograph Reporting”の紹介があった。将来をみすえてのコホート調査で、11,980枚のX線画像(82%が胸部)につき、放射線科医による生成AIのモデルを利用した読影の場合、利用しない読影の場合と比較すると、読影時間が189.8秒から159.8秒に約16%減らすことができた。診断の正確さや文章の質、特定の疾病の発見でもレポートを使わない場合と比べて比べてレベルは同等だという。
あと、発表者自身の論文” Value of Using a Generative AI Model in Chest Radiography Reporting: A Reader Study”も参照された。医療分野に特化したマルチモーダルの生成AIツールを使って758枚の胸部画像の読影レポートを出したところ、放射線科医の読影時間は34.2秒から19.8秒に減ったという。
次に、3)の自動生成したレポートを放射線医がどの程度そのまま使えるかというレポートの受け入れの程度につき少し詳しく説明する。
胸部放射線画像に特化したLLMを用いて自動作成したレポートをそのまま受け入れる割合については、Hwang他による“Clinical Validation of a Generative Artificial Intelligence Model for Chest Radiograph Reporting: A Multicohort Study”での調査結果を説明した。
1539人のXCR画像のレポートについて、AIで自動作成したものと放射線科医の書いたものそれぞれを評価する。評価は4レベルあり、修正なしで受け入れ、マイナーな修正、かなり大きな修正、使えないの4つ。
自動作成分については、上位2つ(修正なしとマイナー修正)で87.6%、修正なしのものに絞れば64.1%という受け入れ度だ。放射線科医作成分と比較した調査では、マイナー修正まで入れたレベルではほぼ同じレベル、修正なしですむものに絞ると66.8%対75.6%と人作成の方の受入率が高くなる。(ここの%の数字は参照資料により異なる)
下の図2は、異なる4つの部門・用途ごとにAIが自動作成したものと放射線科医の作成したレポートがどの程度放射線科医師に受け入れられているかを示す。

Pooled distribution of acceptability of artificial intelligence (AI)–generated reports and radiologist-written reports as evaluated by a panel of seven thoracic radiologists. ED = emergency department, ICU = intensive care unit.
(図2)放射線科医によるレポート受け入れ度の用途・部門別による整理
(参考資料)
1.All of US Research Project関係
(1)プロジェクト全貌
・筆者のブログ ヘルスケアデータの大規模収集(コホートやバイオバンク) その1 欧米の例 2023.12.26
https://techkh.jp/225/
(2)All of USプロジェクトで収集し開示しているデータ
現在公開しているデータ、将来公開予定のデータをまとめて整理している。
https://www.researchallofus.org/data-tools/data-sources/
(3)最初の画像情報収集を行う“Eyes-on-Health”研究のスタートの発表
https://allofus.nih.gov/article/all-of-us-research-program-launches-eyes-on-health-study
2.胸部放射線画像のAIによる診断の関係
(1)論文“Efficiency and Quality of Generative AI–Assisted Radiograph Reporting”
JAMA Network Open, June 6 2025 著者 Jonathan Huang他
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2834943
(2)論文 “Value of Using a Generative AI Model in Chest Radiography Reporting: A Reader Study”
Radiology, 2025 Mar; Volume 314, Number 3 :e241646 著者 Eun Kyoung Hong他
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40067108/
(3)論文“Clinical Validation of a Generative Artificial Intelligence Model for Chest Radiograph Reporting: A Multicohort Study”
Radiology, Volume 316, Number 3; 2025年9月23日; 著者 Eui Jing Hwang他
https://pubs.rsna.org/doi/10.1148/radiol.250568
3.放射線画像診断にAIを使う場合の効果についての論文
特にAIを使うとかえって効率が落ちると指摘した論文。
”COMBINING HUMAN EXPERTISE WITH ARTIFICIAL INTELLIGENCE: EXPERIMENTAL EVIDENCE FROM RADIOLOGY”
NBERのworking paper, 2023年7月(2025年11月revised), 著者 Nikhil Agarwal他
https://www.nber.org/system/files/working_papers/w31422/w31422.pdf
- PROFILE
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柴柳 健一
大手ITベンダーでの海外ビジネス、アライアンス事業の経験を活かし米国最先端ICT技術の動向調査、コンサルを行っている。
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