私のデジタルヘルスへの問題意識 ...-ICT技術調査 デジタルヘルス情報提供-株式会社テックナレッジハウス
BLOG / デジタルヘルスの未来
私のデジタルヘルスへの問題意識と今後のブログのテーマ
日本では、コロナを機に遠隔医療の保険適用が多少前へ進み、デジタル化の必要性もコロナ対応でのPCR検査や予防接種対応の課題を通し再認識されてきています。
しかし、日本は、まだ、医療制度での遠隔診療の適用が欧米に比べ遅れており、医療の領域のデジタル化も、制度面のみでなく個人情報の取扱への懸念もあり欧米より大きく遅れています。さらに欧米などでも見られる他業種と比べたヘルスケア領域のデジタル化の遅れ(米国でも他業種より10年単位で遅れているといわれる)もあり、皆保険の点では恵まれますが、テクノロジーの恩恵を得られる医療への道のりはまだ遠い状況です。
社会の大きな方向性としては、身体の健康に加えメンタルヘルスなど心の健全性を保つこと、更には社会的にも幸せなウェルビーングまで追求する方へ向いています。
この環境下、元々遅れていたデジタル化を進め、更にICTテクノロジーを利用して人の健康や幸せを増進しようという動きも、世界で進みつつあり、欧米はその先頭を走っています。
私は、IT屋で、この5年ほど、先端ICT技術(特にパブリッククラウドとAI)とその業種DXへの応用(ヘルスケア、製造業、小売業)についての米国の動向調査を行ってきました。以上で触れたように、幸か不幸かヘルスケア分野へのICT活用ならびにDXの可能性は無限に広がっている状況なので、私としても、このブログサイトで、多少なりともこの分野の最先端の状況の情報発信をして、皆様のお役に立てればと思った次第です。
今回はまず、この何年かの私の調査を通じて、医療のDXにつき理解したことをまとめます。
次回以降は、ここで整理した分野や、人の健康をより広げてみるウェルビーングなどにつき、米国を中心とした世界の最先端の動きをご紹介します。情報は、米国の医療ICTを扱うイベント(HIMMSなど)やAIの国際学会への参加で得たり、米国のMD(医者)などからのヒアリングや医療関連ウェブサイト閲覧から得ます。これら最新の情報を多少まとめた形で、まずは隔週から月一回くらいで発信していきます。
ここ5年で医療のデジタル化、DXを調べてわかってきたこと
(1)医療へのAI適用
- 米国では医者のburnout 問題が大きな問題となっており、デジタル化やAIなどの技術の適用により医者の負荷を下げ、診療に集中できるようにすることが大きく期待されている。
- 医療へのAIの適用は、一部の分野を除き、まだまだ初期の実験段階にある。
- 実用化が進んでいて、もはやAIなしではすまされない分野は、創薬や医療画像診断分野。限られた利用としては下記2例の様なケース。
- 病気の初期症状らしい兆候が出てどうしようか迷っているときや遠隔診断の最初の 対応決めで使われるsymptom checkerというシステム。
- 診察時の医者と患者の会話の文字起こしを行い、電子カルテへの入力を容易にするためのシステム。
- 医療データを使ったAIによる予測では、たとえば、SEPSIS(敗血病)の早期発見やICUでの死亡予測での適用の研究は長く行われている。しかし、まだソリューションとまでは言える段階ではない様子である。
(2)スマホベースの健康関連情報、AP(アプリケーション)
- 健康アプリの類のスマホベースのAPは何十万あるとかいわれるが、実際に医療側のアプリケーションと組合わされ使われるケースは少なく、なかなか個人の健康管理の決定打にはなっていない。
- Appleが電子カルテのデータをApple watchにダウンロードできるようにしたり、逆にApple watch側にある身体のバイタルなどの情報を電子カルテ側で読み取ることが可能になってきており、米国では病院内外の情報のやりとりの環境は整いつつある。
(3)医療、医療制度の変化やデジタル化を進める法制度
- 米国、英国は遠隔医療がもともと進んでおりコロナで加速された。これに伴い、患者の遠隔からのモニタリングや遠隔医療全体のプロセスを支えるソリューション(電子カルテシステムと連携する)や必要機器の開発も進んだ。
- コロナ以前は、米国でも、保険制度での遠隔医療のカバーは十分でなかったが、州ごとにコロナの特別対応などを経て、一般的診療に拡大されつつある。
- 米国では、電子カルテ情報の標準化は、相互のやり取りのためのAPI(アプリケーションインタフェース)がFHIRとして規定され、さらにそのデータ構造はUSCDIで規定されている。
- 米国政府は、電子カルテシステムによる外部からのデータ開示要請へ対応できるAPIの提供および医療機関が正当な医療データ開示要請に応じることを法制化している。
(4)心の問題の重要性
- 医療では身体と心と両方の健康を保つ必要があると認識はされているが、なかなかこれを実現させる制度や方法がない、もしくは実行するのが困難な状況である。
- CDCなど米国の公的機関の発表では、コロナ後にメンタルヘルスに問題を感じている人が41.5%もいる状況で、この比率も増えてきている。米国のSurgeon Generalの2021年のAdvisoryでは若者のメンタルヘルス対策が主題となった。
- 米国では、メンタルヘルスの遠隔診療、デジタルツールも組合わせた行動変容、患者に対して専門分野の異なる複数人のチームを作った対応などの試みが徐々に進みつつあるが、精神科医の不足も問題視されており一気に解決するのは難しい現状である。
(5)ウェルビーイングの受け止め、個人を幸せにする指標
- 個人の健康状態の判断には日常の運動、食事、社会生活など含めた情報からの総合判断の必要がある。米国では、これら社会的ファクターをSDOH (Social Determinants of Health)と呼び、特に貧困層の健康増進のような議論でこの話題がよく出てくる。
- スマホアプリには、アクティビティ(散歩、体操など)、睡眠、ストレス、栄養の4つの要素から1000点満点で個人のヘルスコアスコアを出して、このスコア改善のコーチングを行うようなアプリもある。
- 更に個人の幸せや満足度まで勘案してウェルビーングとして測定する方法やこの広いウェルビーングを改善する手法なども議論されるようになってきた。
- PROFILE
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柴柳 健一
大手ITベンダーでの海外ビジネス、アライアンス事業の経験を活かし米国最先端ICT技術の動向調査、コンサルを行っている。
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