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生成系AIとヘルスケア

2023.04.12 デジタルヘルス

昨今、日本でも生成系AIやChatGPTという言葉が、ニュースや新聞などのメディアで見ない日はないほどのバズワードになった。
Open AIが2022年11月に世に出したChatGPTは、ウェブからつないで会話ができ、まるで人であるかのように対応し、いろんなことも教えてくれる。一方、ヘルスケアへの生成系AIの適用は、実は、創薬の分野で既に始まっている。

今回は、生成系AIがどういうものかということと、創薬の分野を中心にしたヘルスケアへの生成系AIの適用につき簡単に説明したい。

(1)そもそも生成系AIとは何か
生成系AIは、英語でGenerative AIといい、一般には、これまでのAIモデルが分析や予想を行っていたのと異なり、全く新しいことを作り出してくれる。具体的には、言葉やフレーズで指定すると、文章、プログラムのコード、画像、合成されたスピーチ、ビデオや3Dのモデル、その他音楽/生物学/化学の分野のものも自動で作ってくれる。

たとえば、画像生成のDALL-E2で” “teddy bears working on new AI research on the moon in the 1980s”と入れるとこんな画像が出力される。1980年代にテディーベアが月でAIの研究をやっている、としたらどんな感じか描いてみて、と指示を出した結果である。確かに使っているコンピュータシステムをみるとこの時代のものにみえる。

(出典:Open AIのCEOのSam AltmanのTwitter

また、Chat-GPTは、GPT-3(文章の生成、文章の要約、質問への回答、翻訳ができる)を対話形式で使える。文章での質問に、人であるかのように質問に答えてくれる。ここでは、情報収集と整理での使い方の例をwebから引用する。

(出典)ブレインパッド社のホームページ ChatGPTとは?

このように、ChatGPTを使うと、確かに人の質問に対し、人が作ったような回答を作成し返答できる。しかし、一方で次のような欠点を持っているので、その使い方に関しては様々な議論を呼び起こしている。
 ・間違ったことを正しいかのように伝えることがある。
 ・最近の出来事は理解していない。

とはいうものの、随分と人間らしいことをできるようになったので、日本でも、産業界がこぞって生成系AIを活用できないかの検討を始めており、自民党も日本政府での活用を提案するような動きとなっている。因みに、今週の4月10日にOpen AI CEOのSam Altman氏は来日し岸田総理と面談した。

実際の製品やサービスへの生成系AIの活用も始まっている。3月にはマイクロソフトやグーグルが相次いでオフィスで利用する製品群への生成系AIの導入を発表したり、生成系AIを使って広告を自動生成するようなソフトウェアもでてきている。

(2)ヘルスケア領域への生成系AIの適用
生成系AIは、何らかのファウンデーションモデルベースにできている。ファウンデーョンモデルとは、GPT-3などの大規模言語モデル(LLM)のように、大量で多様なデータによる学習を通しある程度汎用化された特性を持つAIモデルのことをいう。

医療向けには、Googleが医療向け大規模言語モデルのMedPaLMを2023年3月に発表した。このようなファウンデーションモデルが、更に診療・治療などの大量のデータを学習し、医療システムのUIの改善も含めた診療や広くはケアに役立つヘルスケア向け生成系AIのシステムが今後生まれてくることが期待される。

既に創薬の分野では、生成系AIを利用した創薬の活動が始まっているが、これは次に紹介する。

(3)創薬への生成系AIの適用
ここでは、具体的に生成系AIの利用をトライしている創薬やそのためのツールにつきいくつか例を挙げて説明したい。

1)Nvidiaのライフサイエンス分野向け大規模言語システムのフレームワークBioNeMo
半導体のベンダーのNvidiaは、創薬をはじめとした化学や生物学の研究開発のための生成系AIのフレームワークのBioNeMoのクラウドサービスにおいて、下記の9つの生成系AIのフレームワークを提供している。

・アミノ酸の配列から3Dのタンパク質の構造を予測:AlphaFold 2, ESMFold, OpenFold
・タンパク質の特性の予測:ESM-1nv, ESM-2 
・小さな分子の生成:MegaMolBART, MoFlow
・タンパク質の生成:ProtGPT2
・小さな分子の分子への結合構造の予測: DiffDock

上記の、AlphaFold 2は、Google傘下のDeepMindが、2020年11月に発表し、わずかな時間でアミノ酸配列からその立体構造を極めて高い精度で予測できることが示され、世界中の関係者をあっと驚かせた。更には、2021年の7月に無償で一般利用が可能となった。
薬の候補がきくかどうかの判断のためには、タンパク質のアミノ酸の配列だけでなく、その立体構造も知る必要があるので、創薬でAlphaFold 2が大きく貢献すると期待されている。 

2)Absciによる抗体医薬の設計と検証
 生成系AIを使う医薬創成の会社と自身を呼んでいるAbsciという創薬の会社が、今年の1/31に、ゼロショット(学習データになかったことを予測できるAI手法)の生成系AIによる抗体(医薬)の創成と有効性評価を初めて行える会社となったと発表した

これを使って設計した薬が実際2024年にはでまわる、またこれにより、これまで6年かかった開発から導入までの期間を8か月から24か月に短縮でき、臨床試験での成功確率もあがる、とAbsciは言っている。

創薬の分野は、ヘルスケアの領域の中で、生成系AIが本格的に利用される最初の分野となりそうで、徐々にその成果が世に出されてくることが期待される。