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米国の医療DXイベントHIMSS24概況 – ホームケア・ホームホスピタル、生成AI活用が目立つ –
3/11から3/15に フロリダ州オーランドのOrange County Convention Centerで開催された医療DXイベントのHIMSS24に参加したので、今回はざっと概況を紹介し、AI関係とHome Hospitalについては今後2回に分けて改めてより詳しく説明したい。
去年と比べた今年の全体の印象としては、業界の最大の課題は医療関係者のburnoutとの認識で、ブームの生成AI含めたAI活用でまずは事務管理的な部分の生産性を上げたいとの強い流れを感じた。特に電子カルテまわりでの活用の紹介・展示が多かった。あと、遠隔医療から更に進展したホームケア・ホームホスピタル分野への大手病院の取組強化や新たなサービス開始が目立った。
私はIT畑の人間で、ここでとりあげたことがそのまま日本で通用するわけではないと思うが、日本の医療DX推進の上で多少でも参考になればと思いここにまとめたい。
(1)イベント概要
米国で年次開催される世界最大の医療DXのイベントで、電子カルテとそのまわりのシステムが主に取り扱われる。関連ベンダーの展示やソリューションの紹介のみでなく、4本のキーノートセッションのほか、米国の連邦政府のヘルスケア幹部が政策の方向性や方針をアップデートし、ソリューションのユーザのprovider(health systemとも呼ばれる病院グループでMayo Clinic、Cleveland Clininc以下多数 )も参加し彼らの事業の方向性やDXの諸課題への取組につきプレゼンテーションを行う。今回の参加者は3万人とのことであった。
(写真1) HIMSS24風景
全体のテーマは“Healthcare Tomorrow”。業界の課題として医療関係者の過労や要員不足があり、この中でコロナが発生したり、生成AIのブームがおきたりして、急な変化への素早い対応も問われている。じっくりヘルスケアシステム全体を根本から考え直さないといけないのではということからこの
“Healthcare Tomorrow”というテーマが設定されている。
(2)メインキーノートのトーン
メインキーノートのトーンで特に印象に残ったことは下記の2点である。
① HIMSSのCEO である Hal Wolf 氏はまず、今後のヘルスケアシステムを考える上では、持続性(sustainability)が大切で、プライマリーケアの持続性、病院外との連携を考慮した持続性、温暖化ガスの削減などの環境問題での持続性対応の3つの持続性課題の解決が重要と述べた。
また、AIには魔法のように一気に“えいや”とやって解決するわけではなく、1)デバイスやアプレットの活用、2)スループットを管理・改善する運用アプリの活用、3)最近はやり始めている医療の意思決定に使うハイレベルのアプリ活用、をよく考えてAIシステムを開発することが必要と言及。
② Robert Garrett 氏(ニュージャージー州で最大のヘルスシステムであるHackensack Meridian HealthのCEO)は、世界経済フォーラム(World Economic Forum)に参加し、そこでヘルスケアに関しては主として以下4つに関して話し合われ、これらはいずれも今後のAI活用とも絡んでくると報告。
1)医療へのアクセス 2)診療結果の改善とよりよい価値提供
3)医療での平等性 4)気候変動のヘルスケアへのインパクト
ヘルスケア分野の将来は、AIも利用して、ケアシステムがシームレスにつながっていて、より予防やウェルネスにフォーカスし、人種に関係なく平等に提供されるようになるべきだ、と述べた。
(3)米国の医療関連動向
医療関係者のburnoutは、現在の米国の医療の中で最大の問題と認識されており、これから高齢者のふえていく米国では医療提供の持続性(sustainability)が大きな課題となっている。
医療形態ということでは、Home CareやHome Hospital(家庭でのケア、家庭での入院レベルのケア)の拡大の流れが大きく進みつつあり、今回のHIMSSでは、日本人医師もよく留学するボストンのMass General Brighamの本分野拡大やCleveland ClinicのHome Hospital分野への進出がセッションで紹介されていた。患者の満足度向上だけでなく病院での重症患者以外の入院を減らすことにも役に立つ。
なお、Mass General Brighamは、遠隔医療用機器や機器関連サービスを提供するBest Buy Health(家電量販店のBest Buyの傘下)との連携で以上のサービスを実現している。
上記のburnoutの対処としてなんとか医者含めた医療関係者の事務的作業を減らしたい、AIを活用したいという雰囲気が会場中で漂っていた。
(4)DXの動向
生成AIでは、実際に実用化と導入が大きく進んでいるのは、clinical documentation、つまり患者と医師の会話を聴いて電子カルテの原稿を作成する分野。電子カルテベンダーのEpicはNuance(Microsoftの傘下)を用いたもの、Oracle Health(旧Cerner)はOracle Digital Clinical Assistant、専業ベンダーはふえて、老舗のNuanceやSukiに加え、DeepScribeやAugmedixなどが展示していた。今後半年ぐらいの間に、単なるnote作成(患者と医師の会話から電子カルテ原稿用の文書をおこす)だけでなく、以降の処理に必要なコード化とか診断結果までドラフト化するものが出てくる。
適用対象は広がりつつあるが、例として北米で電子カルテのシェア1位のEpicの場合、生成AIの適用分野は下の写真2で説明されているように、
患者からのメッセージへの回答ドラフト作成、患者の診察前準備としての電子カルテサマリー作成、研究分野の質問をEpicの 医療DB(Cosmos)の検索文に変換、退院・勤務引継ぎに用いるサマリー文書作成 へと広げつつある。
(写真2) Epicの生成AI適用分野を説明する展示パネル
これとともに責任あるAI/信頼性もセットで大きく取り上げられていた。このHIMSSの期間中に、Microsoftは、TRAIN(Trustworthy & Responsible AI Network)というヘルスケア分野の責任あるAIについてのコンソーシアムの結成を発表した。メンバーは16機関であり、Cleveland ClinicやMass General Brighamなどの名だたる病院グループなどが入っている。AIの安全利用の事例紹介、AIを使ったシステムの結果の評価ツールの提供などを行う。
あと、医療用特化の基盤モデルは、GoogleがMedLMのデモを行っていた。医療用の基盤モデルのMed-PaLM2に更なる医療向けチューニングを施し、ボットだけでなくより高度な利用に耐えるようにしたとのことだった。大手の病院グループを持つHCAなどがトライアルで利用している。HCAが上述のAPのAugmedixを使っており、このAugmedixがMedLM上に構築されているという指摘もある。
また、遠隔医療、更にHome CareやHome Hospitalを実現させるためには、種々の遠隔医療用のツールも必要となる。遠隔医療用ソリューションとしては、Amwellが知られているが、機器やその関連のサービスとしては、Best Buy Health(遠隔医療機器ベンダーCurrent Healthを2021年に買収)が、OMRONなど他社製品含めた遠隔医療機器の自動販売機を展示するのに現地関係者まで驚いていた。この展示品が写真3である。病院などに置くという。
(写真3)Best Buy Healthの遠隔医療用機器の自動販売機
米国では、電子カルテ情報の必要な場合の開示は、すでに法律上mustであるが、異なる病院系列や異なる電子カルテ系列間でのやりとりまでは必ずしも現状ではできない。これをTEFCA (Trusted Exchange Framework and the Common Agreement) のルールを守ればRCE下で各ネットワークが繋げられるようにする動きを政府 (米国政府の保健福祉省下のONC) が旗振り、実装が始められる状態になってきた点も評価に値する動きだ。下の図1がTEFCAの仕組みで、現在、電子カルテ会社や独立系の相互接続ネットワークがQHINというネットワークのルールを守れば相互につながるようになる。
(図1)TEFCAとは?
日本もすぐにとはいかないだろうが、厚労省の医療DX推進の活動をきっかけに、医療情報の共有の進むことを期待したい。
(5)その他の基調講演など
基調講演では、上記で触れた点のほかZipline社のドローンを使った薬の配送の紹介もあった。最新技術のPlatform 2では、下の写真4、写真5のようにドローンの発着の場所がビルの側面に簡単に作れるようになった。
実際の例として、ルワンダでの利用状況、米国でのWalmartの利用状況の説明もあった。なお、日本では、Zipline社製は日本で既に五島列島で利用されている。
(写真4) Zipline 新技術でのの発射装置
(写真5)Ziplineへの薬の格納方法
法律事務所(Taylor English)からのプライバシーやAI規制の話では、連邦政府や州の法律など同じことでも何十にも法律があるので要注意、とか、例としてAI規制ではFTCまでAIを利用する場合に説明が必要とかいいだしている、などの話があった。
あと、ホワイトハッカーとして知られるRachel Tobac氏から、いかに個人の各種アカウントに侵入していくことが容易か、したがって多重認証がマスト、との説明があった。侵入の容易さでは、ITサイドからだけでなく本人への電話も使ってsocial engineeringと呼ぶ手法で(オレオレ詐欺の進化版)我々の想像以上に詐欺の電話に自然に引っかかるデモをみせた。
(6)展示
個別ベンダー展示とテーマ展示(Interoperability, Digital Health Technology, Patient Engagement, Security など)があった。Interoperabilityは昨年と異なり実際の診療科ごとの連携デモをみせていた。
個別の展示では、電子カルテのメジャーベンダーのEpicやOracle Health(旧Cerner)のほかには、これまでに言及しなかった分野では、下記の様なベンダーが気になった。
1)ヘルスケアデータをまとめたデータウェアハウス大手ベンダー(パブリッククラウド、クラウドDWHベンダー)をはじめスタートアップ系も多くの展示がみられた。スタートアップでは、Innovaccerはデータ構造をフレームワークベースで構築でき、これを用いAIも利用した分析・予測を行うことができる。
2)事務作業の効率化
一例で、QGendaでは、医療関係者の仕事の管理(Work Management)のソリューションだが、医師や看護師などの勤務管理などを行える。
以上
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柴柳 健一
大手ITベンダーでの海外ビジネス、アライアンス事業の経験を活かし米国最先端ICT技術の動向調査、コンサルを行っている。
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