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将来の医療サービスのイメージ(1)

2022.07.31 医療、医療制度

– 米国でのAmazonや小売業の参入による広がり –

今後、何回かに分けて、遠隔医療やデジタル化の進展とともにかわりつつある医療サービスのイメージがどう変わっていくかを米国での具体例をみながら考えていきたい。米国は、コロナ前から遠隔医療が日本に比べれば進んでいたが、コロナで利用が加速し、コンサル会社のマッキンゼーの調査では、遠隔医療は、コロナ発生(2022/2)直後には直前の78倍に増え対面診療の3分の1になったが、2021年5月の調査ではコロナ前の38倍に落ち着いているという。

今後、米国での医療サービスは、遠隔診療と対面診療の両方を使い分けるようになっていく、とのように言われている。(たとえばHarvard Medical SchoolのIndustry Insights

第1回の今回とりあげたいのは、米国でのここ数年での他業種(小売業やハイテク大手)からの医療サービスへの進出だ。7/21にAmazonが医療サービスを提供するMedical Oneを39億ドルで買収したというニュースを目にした方もいらっしゃるのではと思う。これらの動きは、デジタル化が進み個人でも自分の健康状態を把握し管理していく時代に向けて、医療サービスを身近にして医者にかかるというハードルを下げ、遠隔医療をさらに進めるためのインフラとしても機能する。

まずは、他業種からの参入につき説明したい。大型スーパーのWalmartやドラッグストアのCVSは、小売店舗の中、もしくは横での簡単な医療サービスの提供を行う施設の展開を進めており、一方、家電量販店のBest Buyは主として年配者を念頭に、電話やテクノロジー機器を用いてリモートからのヘルスチェックや緊急相談窓口を行う。また、ハイテク大手企業、特にAmazonも医療サービス提供を強化している。

7/21にAmazonは、米国で会員制のプライマリーケア(ホームドクター、つまり専門医にかかる前に日常まずみてもらう医者)の医療サービスの会社One Medicalの買収を発表した。One Medicalは、ホームページなどの情報によれば、休日・祝日含め24時間体制で遠隔診療をリクエストベースで受け付け、対面の診察はリクエストの当日か翌日受け付けるという。会員数80万人足らず、8000以上の会社の従業員への医療サービスも行っている。

これは、AmazonがAmzon Careとして2019年に始めた従業員と家族向けの医療サービスを、徐々に社外の法人契約やAmazonの本社のあるワシントン州より外へとサービス拡充の一貫であるとみられている。

以下、先に挙げた3つの小売業のサービスとAmazonのサービスをもう少し詳しく箇条書き形式で説明した上で、それらのメリットを考えてみる。ハイテク大手の取組は、医療サービスの提供以外にもウェアラブルの提供など幅広いが、ここでは医療サービスの提供に限ることとする。

(1)CVS

 – ドラッグストアのCVSは、2018年に健康保険の会社のAetnaを買収した (2020年は売上の28%)。

– 医療サービスは、2006年にMinutes Clinicを買収し、2021/12現在1,200か所展開。看護師と医師のアシスタントで予防注射など簡単な医療サービスを店内で提供。

 – 2020年からMinutes Clinicより規模の大きいHealthHubの展開を開始し年末650か所、2021年末に1500か所迄広げる。2021/3にメンタルヘルス対応も追加。(店舗は限定)

 – 2021/8にAetna Virtual Primary Careを発表し遠隔医療をTeledocの支援を得て全国規模に。
自宅、上記のHealthHubやMinutes Clinicなどからの遠隔医療や自宅での対面診療が可能。

– 2021/12に店舗を3種類に再編すると発表。医療(プライマリーケアサービス)専門店、
HealthHubの発展形で日常の健康関係商品も置く店、従来からのドラッグストアの3種。

 – 2022年度は、医療サービスを提供する会社とのパートナーシップを結び、慢性疾患の管理や在宅ケアの領域にも広げつつある。

(2)Walmart

  – 2019年からWalmart Healthを展開。地元の医療機関との提携で運営。医師や歯科医、診療看護師、医療技師などが常駐し、初期診療や臨床検査、レントゲン撮影、歯科治療、眼科治療などの医療サービスを同じ場所で提供。現在20か所、2029年までに4000か所に拡大。

– 2021/5に遠隔医療の会社のMeMDの買収を発表。24時間・年中無休の遠隔診療サービスを展開している。数百万の会員に、一般的な病気やけが、精神疾患対応を行う。

(3)Best Buy (全米に約1000店舗持つ家電量販店)

  – 下記買収以前から、Best Buy Healthで、シニア向けに、電話やテクノロジー機器を使った
リモートからのヘルスチェック、緊急相談窓口などのサービスを提供していた。医師の判断が必要との場合には、顧客の指定する医師と連携する。

– リモートモニタリング機器とそのデータ管理プラットフォームを持つCurrent Health社を、2021/10に4億ドルで買収した。Best Buy Healthのリモートモニタリング機能の刷新につながる。

(4)Amazonの医療サービス

  - 消費者向けの医療分野サービスとして、従業員から一般人向けに拡大中の医療サービスを提供するAmazon Care、オンライン薬局のAmazon Pharmacy、Covid-19テストキットの提供と診断(FDAから緊急時利用の承認はとっている)サービスを行う。

– Amazon Careは、AmazonがHaven*の一貫で2019年に始めた従業員と家族向医療サー
ビス**で、遠隔診療と対面診療を行う。2021/3から社外へ法人契約によるサービス提供も
始め、2022/2現在5社と契約済。(PrecorとHiltonに加え、2022/2に新たに3社を発表)
遠隔診療は米国全土で可能、対面診療は現在7都市で可能で順次拡大中。
 *: Haven  2018年設立の3社(Amazonと保険会社のバークシャーハサウェイ、銀行のJP
   モルガンチェース)による合弁は、2021年2月に解散した。
 **:プライマリー(オンデマンドと対面の両方)と救急に加え、性や栄養面での相談など。

– なお、インタネット薬局のPillpack買収。2020/11には処方薬の取扱を米国の45州で開始

– 既述のように、2022/7に医療サービスの会社One Medicalの買収を発表。One Medicalは、
遠隔診療と対面診療をタイムリーに行う。(対面診療はリクエストした日か翌日)

 

次に、これらのサービスにより、医療サービスにどういう改善がもたらされるかを考えてみる。

  • 医療が身近になる。米国の事情も影響するが、スーパーやドラッグストアに買物に行ったら
    その場で、予防接種、簡単な検査、さらに望めばプライマリーケアの診察を対面でも遠隔診療ででも受けられる。実際、Walmartを例にとれば、Walmartは米国全土で4,742店舗を持ち

米国の全人口の90%の人は10マイル以内にWalmartの店舗があるという。

  • Amazonを筆頭に、DXを大胆に進めている小売業大手が推進していることで、他業種より10年単位で遅れているといわれているヘルスケアの分野(特に医療)のデジタル化(より広くはDX)を規模も活かして効率よく進められる。たとえば、Amazonの傘下のAWSはパブリッククラウドの世界1位のベンダーであり、Amazonはおそらく世界で最も進んだオンライン販売システムをAWS上で稼働させている。
  • 最初に、コロナに伴う米国での遠隔診療の広がりについて述べたが、この遠隔医療を広げるための1つの重要な点は、離れていても患者の状態や検査結果をすぐに医者や看護師が手元でみれる、つまりリモートモニタリングを可能にすることである。上記のBest Buyの試みはこのリモートモニタリングを行うインフラとして有効になる。

また、Higi社のFDAに承認された端末が全米の約1万か所のスーパーなどに置かれ、血圧や体重などの基本的なバイタル情報の取得、糖尿病のテスト、更に心臓のテストなどを行える。

   

 小売業やハイテク大企業のこれらの医療サービスの提供は始まったばかりであり、今後ますますこれらの医療サービス改善に貢献していくものと期待される。