米国での患者とつなぐCX医療ソ ...-ICT技術調査 デジタルヘルス情報提供-株式会社テックナレッジハウス
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米国での患者とつなぐCX医療ソリューション実装例
– 医療での CX (Customer Experience、顧客体験)向上の実装事例:米国 Banner Health –
民間企業では顧客管理のソリューションの導入は今では常識となっており、DXがはやる前は、副題につけたCX向上は企業の取り組むべき最大の課題の1つだった。しかし医療の業界(特に病院)ではCX対応は大きく遅れているように見える。
代表的顧客管理ソリューションのセールスフォースはHealth Cloudを出しているが、病院にとっては相変わらず電子カルテのシステムがITシステムのコアとなっており一般企業の顧客管理システム導入のメリットがなかなか見いだせないのが現状だ。
そこで、米国でアリゾナ州などに30の病院を持つBanner Healthによる”消費者とつなぐヘルスケアシステム(Connecting Consumers with the Healthcare System)”と題する講演を聴く機会が最近あったので、Banner HealthのCXへの対応を簡単にご紹介したい。米国では、大規模病院でこのレベルのシステム導入は珍しくはないと思うが、最近の実装例として紹介したい。興味深いのは、この病院が何をきっかけにこのシステム導入を決めたかという点である。消費者が診察を受けようかと迷っているときにGoogleの検索機能を利用するケースが多いことを認識してのことだったということであり、これについても少し詳しく触れたい。
前置きが長くなるが、このCX(顧客体験)、つまり患者もしくは患者になりうる消費者の病院とのやりとりや病院で経験で感じたことの改善する試みは、デジタル化を用い、消費者もしくは患者にとり、利便性の向上や病院(医師も含める)との意思疎通の向上につながり、病院側にとっても効率改善、患者満足度向上につながるwin winの関係を築く。
(1)Banner Healthでの導入の背景
Banner HealthのCX向上は、Googleの本社を訪問しGoogleの検索のチームと、健康に関するテーマの検索について話したことから始まった。Googleのチームの話によると、消費者は健康に関してGoogleの検索機能を使ってなんでも聞いてくる。今の症状をどう考えたらいいかとか、どこの病院へ行ったらどんな治療を受けられるかとか、更には手術後の状態のことまで検索で聞いてくるとのことだった。
これを聞いて、Banner Healthとして、消費者が様々な症状で診療を受ける場合にGoogleでまず検索して調べるかときいてみたら、我々の予想を大幅に上回ってGoogleの検索を使うとのことだった。
これは、これからBanner Healthの患者になる可能性のある人がGoogleを検索することで他の病院を見つけて他の病院に行くケースが数多く出ることになるとも考えられる。確かに、日常生活での買物を考えてみると、人が何か買いたいものを探すとき、74%のケースはまずAmazonで探すということなので、医療の場合はGoogle検索の対策が必要とのことになる。また、Amazonで買物の場合、Amazonでなければ複数のサイトへ行く必要のあるところを、Amazonだけですべて買物できるなどのメリットもある。医療でも自分たち(Banner Health)がAmazonのように自分たちだけで閉じて解決できる医療サービスを目指すべきではないかと考えた。
ちなみにGoogleは、3月に検索機能で医師の診察の予約ができるような機能を順次搭載することを発表した。この機能の提供に当たっては、米国有数のドラッグストアであり医療サービスも提供するCVS Healthとも組んでおり、CVS Healthの提供するMinuteClinicのサービスとも連動して動くらしい。検索から下記のような画面に到達し、自分の加入している保険で診療を受けられるところだけを表示する機能も追加していく予定という。
(2)Banner Health のCX(顧客体験)向上
① 予約システム
CX向上のために複数の製品を導入したが、まず最初にUrgent Careのオンライン予約システムを刷新した。医者にみてもらうにも予約が20日先になる、とのようなことの多い米国の事情もあるが、この状況の緩和に役立つと考えられるUrgent Care (米国のテレビドラマにあったER (救急病院)ほどではないが何か症状が出てすぐに診てもらいたい場合の診療科)のオンライン予約システムである。
このシステムの刷新では、ユーザインタフェースとして消費者の使い慣れているレストラン予約サイトのOpen Tableなどを参考にしたという。 新しいBanner Urgent Careのサイトでは、下の画面のように、自分の行きたい地域を指定すると近くにある病院と予約可能時間が表示される。(これは実際現地がまだ朝早い時間に検索)このシステムへの切替により、本システムを利用した場合に実際の予約につながる割合が、11%から42%にふえたとのことである。
② CX向上のシステム設計にあたってのポイント
CX向上のシステムを考えるにあたっての最も重要なポイントは、各家族には、医療に関し、自身や配偶者のみでなく子供や年老いた両親まで含めたケアについての意思決定者(多くの場合は母親か)がいると想定して、この意思決定者の負担を軽くできる有効なツールの開発・提供することであった。
③ Symptom Checker (予兆のチェック)
診察を受けるかどうか消費者の悩む段階でのツールとして、Symptom Checkerがある。
モバイルアプリのSymptom Checkerは、消費者が現在の症状についてのQ&Aを1分半程度行うと、たとえば、救急病院へ行くか、すぐに診察を受ける(前出のUrgent Care)か、オンライン診療を受けるかなどの提案をしてくれる。このSymptom Checkerは、Buoy Healthのものを使っており、これは35,000の用意された質問の中からQ&Aのやりとりに応じてAIが質問を選びレコメンデーションを導く。
ちなみに、このレコメンデーションの結果に従ったかにつき消費者に聞いた調査では、
1)60%がレコメンデーションに従った。
2)16%がサービス水準を下げた。(例:Urgent Careを薦められた人がオンライン診療
を受けた。)
3)24%がサービス水準を上げた。(例:Urgent Careを薦められた人が救急のサービス
を受けた。)
④ その他のサービス
それぞれについて詳しく説明はしないが、以上のほかに下記のようなサービスがある。
・バーチュアルな待合室(コロナ対策)
待合室を自分の車の中として、リアルに待つ人を減らす。
・診察前のテキストでのやりとり
放射線サービス(Imaging Service)では、独自のテキストベースの予約システムから
事前の指示の通知(750種類あり)、予約の調整などを行う。
・ワクチンポッド(コロナ対策)
手続きは事前にオンラインですませ、発行されたQRコードでPODにチェックインする。
このQRコードは、個人の患者情報とリンクされている。なお、将来的に、位置情報と
顔認証で非接触化を予定。
・モバイルアプリで予約可能に
モバイルアプリ利用で、医療提供者(医師や看護師)に直接予約をとることができる
ようになり、Banner Healthが既知の情報入力が不要に。成約率は30%。
・病院で感じたことをすぐにText the CEOで送る
病院への評価を得る一環で、個室の病室に下の写真のようなメッセージを置き、
病院内での患者の体験をCEO宛に送ってもらう。通常30分で返答が返る。
返答に何週間もかかったり返答がなかったりということはない。85%が肯定的な
コメント。これで、よくない点の改善が図れるだけでなく、医療スタッフのモーティ
ベーションも上がるという。
・自分以外の家族とのやりとりをモニタリング
たとえば子供に関する病院とのメッセージや書類の情報のやりとりは
母親など指定された人がかわりに行える。
・病院に出す書類をデジタルで提出
コロナ関係でなくほかの手続きのデジダル化も進めつつある。
・診察前に気になることを質問する
予約診療に関して、診療の際に相談したいことを事前に知らせるなどが
できる。終わった後に患者が聞き忘れたことがあったというようなことを防げる。
・Apple & Google Payでの支払い
(3)適用領域
Banner Healthは、どの領域から手を付けるかを下記のような表で整理して決めている。下図で横軸が診療科、縦軸に具体的なCXに関する患者とのやりとりの内容で、診療科をみつけ予約、顧客の管理、家族間での共有や顧客プロファイルに関する諸々のサービス内容となっている。
現在このCX向上の一環で取り組んでいる領域は、プライマリーケア(かかりつけ医)のサービスでスケジューリングのところがメインターゲット。
この表記についての補足。
(縦軸)CX(顧客体験)の種類
Find(診療科をみつける)、Schedule (患者自身でのスケジューリング、当日診療の
予約、予約の確認/キャンセル/リスケ、キャンセル待ちの管理)、書類管理などの患者
管理、来院の到着管理、情報共有(家族の中でなど)
(横軸)各診療科のCX適用
Mobile(モバイル端末対応)、Web(PC利用)、Telehealth(オンライン診療で現在
オンライン診療を提供しているのは、Urgent Careとプライマリーケアのみ)、
Identity (個人の認証)、System % (どれだけCX向上ツールが使えるか)
(色付け)
青:既に稼働開始 緑:準備中? 黄:計画済 橙:計画中 赤:既存システムあり
N:検討対象外
- PROFILE
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柴柳 健一
大手ITベンダーでの海外ビジネス、アライアンス事業の経験を活かし米国最先端ICT技術の動向調査、コンサルを行っている。
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