医療情報の連携・開示 その2 ...-ICT技術調査 デジタルヘルス情報提供-株式会社テックナレッジハウス
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医療情報の連携・開示 その2 日本編
前回の第7回では、医療情報の連携・開示で世界でも進んでいる米国の状況を説明させて頂いた。今回は日本の状況を、地域医療ネットワーク構築に関わったことのある医者である友人からの情報もふまえ整理してみたい
米国が進んでいるといったのだが、個人の医療情報の一元管理の観点では、エストニアなどの北欧の人口の少ない国で始まり、ようやく人口2500万人の規模のオーストラリアでも実現されるようになっている。オーストラリアのMy Health Recordという2019年に導入したシステムでは、国民の生涯にわたる医療情報をオンライン上に経年的に記録する個人の健康記録で、本人と医療従事者がアクセス可能で更に利用者の範囲を広げようとしている。
欧米もここまでは進んでいないが、医療情報を持っている病院などが外部でその情報を必要とする場合に提供する仕掛けは整備され、情報提供するサービスも始まりつつある。
日本の医療情報システム連携は、病院内の連携では米国の医療データ交換の標準であるFHIRも徐々に使われるようになってきたが、電子カルテの普及率が高くはないこと、電子カルテが標準の連携方式でつながるようにはなっていないため、病院間での連携などは、地域医療ネットワークに限られたものになっている。
(1)日本の医療情報連携
まず、病院や医院への電子カルテの普及度をみてみると、米国で90%、英国は99%である。一方、日本では、2020年のデータでは、病院で57.2%(大きくなるほど普及度は高く400床以上の大病院では91.2%)、一般診療所で49.9%とまだまだ決して高いとは言えない状況にある。
医療情報の連携については、地域単位で地域医療ネットワークが動いている。連携方法を国際標準に合わせていく動きが政府含めてようやく本格的に動き出した。個人への医療情報の提供はこれからである。
(2)医療情報開示への政府の動き
医療情報の開示について、日本政府と厚生労働省は、2022年の5月に自由民主党が発表した “医療DX 令和ビジョン 2030の提言”に沿って動いているように見える。これについて簡単に紹介したい。
医療情報開示を進めるにあたっては、電子カルテの標準化、その普及率向上、情報共有のための情報ネットワークの構築が必要となる。
電子カルテの標準化にあたっては、国際標準となりつつあるFHIRを活用し、共有すべき項目の標準コードや交換手順を厚生労働省が決めることとなっている。検査情報を含む診療情報提供書、キー画像を含む退院時サマリー、健診結果報告書(以上を3文書・6情報と呼ぶ)から始め順次拡大する予定である。
電子カルテの普及率は、2026年までに80%、2030年までに100%を目標とする。これにあたり、電子カルテ未導入の一般診療所などには、官民協力で廉価なHL7FHIR準拠のクラウド型電子カルテ開発の推進を行う。
また、情報共有に関しては、電子カルテ、レセプト・特定健診、電子処方箋情報などの医療情報全般を共有・交換できる全国レベルのプラットフォーム構築を目指す。これが完成するまでは、ここでも紹介する地域医療情報連携ネットワークを引き続き機能させる。なお、このネットワークは公的資金援助を受けている。
(3)病院内外の医療情報連携
1)病院内の情報連携
病院内では、電子カルテのシステムだけでなく、放射線部門、検査部門、研究開発部門
などそれぞれの部門が個別のシステムを導入しており相互にうまくつながっていないケー
スが多い。
連携にFHIRを使って行う動きもでてきているが、前回のブログ(今回と同じテーマの
米国編)で紹介した欧米発のソリューションを使ってデータをまとめて連携をはかる動き
も出ている。例として、InterSystems社のIRIS for Healthを使うと下記のような感じで
病院内の複数のシステムの相互接続ができるようになる。
(出典)InterSystems社の国際モダンホスピタルショウでの講演から(2022/7開催)
このシステムを利用しているある病院(尼崎総合医療センター)では、各システム間の連携により各検査部門の読影レポートの既読・未読の一元管理患者の基本情報の連携、外来診察待ち時間調査を実現できたという。
2)病院間連携
病院間連携は、地域医療介護総合確保基金及び地域医療再生基金を活用して平成20年ごろから全国に地域医療情報連携ネットワークが構築された。やや古い情報だが、令和元年の調査では、その数は218に及ぶ。ただ、必ずしもすべてが活発に利用されているわけではないという。
活発に活動を行っている1つの例に長崎県のあじさいネットがある。
あじさいネットは、2004年に拠点病院の医師記録、看護記録を含めた全電子カルテ情報を
診療所や薬局などでの医療機関で共有し、診療支援を行うサービスとして生まれた。
(出典:厚生労働省 健康・医療・介護情報利活用検討会 介護情報利活用WG
2023/1/25会議のあじさいネット紹介資料から)
2012年から徐々に遠隔医療や訪問医療に取り組み始めている。医療情報共有も、検査結果や処方(調剤)情報の共有に広げ、CTやMRIなどの遠隔診断するシステム、デジタルデバイス貸出も行っている。
現在、総登録患者数は約16万人にまでふえ、38の拠点病院含め408の医療機関が参加する全国最大規模の地域ネットとなっている。
なお、情報共有のためのベースのITシステムは、ID-Link(NECとCSIが提供)かHuman Bridge (富士通が提供)が使われている。
また、私の地元の東京では、診療情報を相互参照できることを目標とした東京総合医療ネットワークが、2015年から既出のID-LinkとHuman Bridgeの相互接続の実証実験を始め、2020/8には更に2ベンダーのネットワーク(CareMillとPrimeArch)も加えた4つのネットワークでの連携テストを完了させ、2022年春から診療所の登録を本格化した。
2022/9現在で、情報開示する病院が24、閲覧する病院が4と1診療所が接続完了しており、更に、10病院、8診療所の接続を準備中。診療所医が病院に患者を紹介し、その結果を診療医者がみることのできる機能から徐々に機能を広げる予定の様である。
(4)個人への情報開示
日本ではメジャーな電子カルテベンダーが患者に対し情報開示しているとはきかない。
患者個人、国民が各人の健康医療情報を閲覧できるシステムは、厚労省が推進しているデータヘルス改革に盛り込まれており、マイナーポータルで徐々に閲覧が始まっている。
特定健診や予防接種、電子処方箋などであるが、今後画像も含む電子カルテなどは2024年以降の見通しである。
日本でも、医療情報の連携・開示の方向性ははっきりしてきたので、関係者の連携・協力により、我々の健康情報が必要なところで本来必要な時に活かされて、医療の質が向上し診療効率が改善され、患者と医療関係者双方にメリットをもたらす社会が1日も早くきてほしいと切望する。
- PROFILE
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柴柳 健一
大手ITベンダーでの海外ビジネス、アライアンス事業の経験を活かし米国最先端ICT技術の動向調査、コンサルを行っている。
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